作品紹介
八 首 抄  
◆2019年 8月号 清水 典子 選
  富士山の裾ひろごるを思はする凛と書かるる新元号「令和」 岩本ちずる
  あなたからの片道切符届くまでほつほつ歩まむ令和とう世を 青山 良子
  迎えたる令和元年寿(ことほぎ)の日の丸はためき民心ひとつ 石川  梓
  平成の代に戦争なかりしと御代のことばの今さらにしむ 浦山 増二
  ホーと伸ばしケキョと短く早口に恋の予感の今朝のうぐいす 宮本 照男
  晴天の朝の雀が囀る〈令和令和十連休〉それだけの事 山口美加代
  薄日射し木木の葉先の水滴を煌めかせつつ晴れてゆく空 奥井満由美
  幼きに戦後の貧困在ればこそ忍耐努力感謝湧く日々 松下 睦子

◆2019年 7月号 渡辺 茂子 選
  この先もずっと一人で棲む部屋と思えば愛しシャガ一輪も 松下 睦子
  旧機種と言はれて悔し花一もんめ取り残されて我とパソコン 成田ヱツ子
  なわ張りを広め来たるか猿走る蕗のとう摘む我の荒れ田を 田口 耕生
  泣けば雨怒りは雷笑むと虹そらの感情われにもありぬ 高田  好
  やわらかな円を描きて枝垂れ梅ひと花ごとに光を掬う 田端 律子
  進退に拘ることもすでになしゆるゆる時の過ぎゆくままに 石橋 謙三
  春の陽に翳す手の平老いしるし青き流れの血管の浮く 伊関正太郎
  何となく水母と書くは切なくて海月と記し一首となしぬ 栗山 恵美

◆2019年 6月号  橋本 俊明 選
  杉花粉さかりか空の濁りくる九十二歳の生を受くる日 広瀬美智子
  午前二時歯磨きしをれば背後より抱きついてくる君の気配す 佐田 公子
  いと親しく話し合ひたり目覚むればすでに世に亡き如流先生 清水 典子
  唐突に新聞記者来て掘り返す戦場六年はるかな記憶 大森 孝一
  電線に絡みし枯れ葉は烏瓜襤褸の旗の形で揺れる 南條 和子
  わが息子十一年の歳月をベッドの上に生かさるるまま 西原寿美子
  受験生二人を置いて田舎行き余命短き母を看取りに 菊池 啓子
  春休み子どもの研修バスの席笑い声きき僕はうたた寝 成田 尊信

◆2019年 5月号  臼井 良夫 選
  ふるさとのように愛した上野駅逢いにゆきし日別れ来し日も 児玉南海子
  右肩を落としペンギン歩きする亡父(ちち)に似た人見つけた二月 高橋美香子
  ひとときのネットの喜憂あったあとキッチンに来てお米を炊ぐ 吹矢 正清
  新年を歩く川面に映り込むわが影さえも共に輝く 田端 律子
  OB会の深き余韻にひたりつつ右と左のホームに別る 山口みさ子
  故郷を背負いて走る背に向かい県歌で送る一人応援 赤羽つる子
  やりなおしのきかぬ歳になりました。コンビニの棚の諦念一つ 森崎 理加
  初唄は今年も変わらず裕次郎きみには言えぬ思い出のあり 浦山 増二

◆平成31年4月号  水谷 和枝 選
  暗澹として下りゆく冬滝の底ひにこもる深き水音 臼井 良夫
  子の一人密かに離れゆく気配よいぞ綿毛がたんぽぽを去る 高田 香澄
  寝坊して半纏はおり駆け出しぬ八時には来るゴミ収集車 岩本ちずる
  冬の雨しとしと寒し年の暮れ齢重ねて淋しさばかり 奥井満由美
  勘弁と言えば気楽な事なのに意地を楽しむ老いの一徹 渡辺ちとせ
  孫あやす吾子に重ぬる亡夫のさま時の流れをひた懐かしむ 西尾 繁子
  レジ籠に葱と大根はみ出させレジ待つ和装の美人に続く 大森 孝一
  丸善で五歳の孫にリクエストされたるは何と『猛毒生物図鑑』 北岡 礼子

◆平成31年3月号  広瀬 美智子 選
  ふわふわの泡のせ洗う夜の顔今日一日の生を見つめて 小笠原朝子
  子に孫へ勧善懲悪説きつけて仏すがたのわがひと眠り 渡辺ちとせ
  年の瀬を観月照らす屋根屋根のブルーシートは年を越すなり 松下 睦子
  繕われし言葉ほどけて行くように林檎の皮の剥かれて螺旋 高田  好
  パソコンをスリープにして出掛ければ眠ってくれた五時間近く 吹矢 正清
  ひとりごつ運転手の声野に響きこの高速道前車影なし 土屋 紀生
  冠の「平成最後」はやり出し耳障りから素直に納得 富安 秀子
  手の届くところに隣家の窓のあり住みて幾年渇きたる街 渡辺 茂子

◆平成31年2月号 佐田 毅 選
  向かひ家の屋根に黒猫陽を浴びて尾の先までも長々と眠る 金山惠美子
  読みかけの本のページを窓からの風がぱらぱら拾い読みせり 中村ま寿子
  過去忘れ未来思はず今日のみが一番楽と目薬つける 矢口芙三恵
  外出を億劫がれる母誘ひコスモス園に歩数伸ばせり 岩本ちずる
  窓際を定位置としてベンジャミンのゆさゆさ騒ぐわれが通れば 山口美加代
  茜さす紫野行く皇子(みこ)在るか今朝もはるかな野を見渡せり 広瀬美智子
  いつ見ても頁めくらぬ歳とらぬ立ちつくす儘二宮尊徳(そんとく)の像 宮本 照男
  こんな孫ほしいと言へばこんな孫いらんと()様に言はれゐるとふ 毛呂  幸

◆平成31年1月号 高貝 次郎 選
  うろこ雲どこか誰かの故里の空へと続き咲く彼岸花 臼井 良夫
  露むすぶ赤きポストの口を拭く封書の宛名滲まぬやうに 高田 香澄
  年ごとに行動範囲せばまれど狭いながらの前向きの生き 青山 良子
  清らかな川面に映る秋の空雲と戯むる萩の枝先 奥井満由美
  希林さん貴女はらしく生き抜いた真似は出来ぬが羨ましいよ 木下 順造
  夕陽さす枯れ紫陽花の揺るる路とぎれとぎれにコオロギの鳴く 佐々木礼子
  代表や歌友が揃う大会で我はいつしか年長の席 草刈あき子
  気をつけての声に送られ台風の進路に向いて全国大会(たいかい)に発つ 今野惠美子


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