作品紹介
八 首 抄  (選者は毎号替わります)
◆平成30年5月号 臼井良夫 選
これ以上無理という程雪載せた街は不気味に軋み出したり 鈴木 純子
目が合へばあなたいくつと歳を聞く人はどこにも分布するらし 高田 香澄
終戦後七十二年おほかたは戦中戦後の飢ゑ知らざらむ 清水 典子
つぶれたる豆の散らばる床を掃く鬼の去りたるひとりの部屋に 山北 悦子
護摩堂の家内拡がり木の香たち如月の朝寺動き出す 吉川 恵子
海はまだそこにあるのに思い出となってしまった今日の出来事 渡邊富紀子
思おえばけむりであった母の笑みけむり流れて崩れていって 古城いつも
千人の働く製菓工場の門に漂うチョコレートの香よ 中田 伸一

◆平成30年4月号 水谷和枝 選
雪原を明るく灯しゆく車両橋のたもとに汽笛を鳴らし 臼井 良夫
待ち来たる自負わびしかり風花は地に届かずにはやも消えゆく 渡辺 茂子
冬にこそ花咲くまでの桜木の漲るような樹皮の輝き 小笠原朝子
「歳取ると親想うよね」ああ同感見知らぬ二人の会話の聞こゆ 三上眞知子
包丁で四角四面に切る豆腐手のひらの上母の微笑む 石橋 謙三
二階家に干さるる柿はのんびりと移ろふ秋を眺めをりたり 岩本ちずる
廻りくる「雪やこんこ」灯油屋に合わせて歌う隣りの仔犬 浦山 増二
外聞も人目も気にせぬ気楽さよ古稀が私を自由にさせる 成田ヱツ子

◆平成30年3月号  広瀬美智子 選
シナリオのなき人生を演じきてフイナーレの幕いかに閉ぢむや 金山惠美子
吾の生の証かこれが雪道をあはれ引きずる如き足跡 小西 喜弘
楡の落葉いち枚ベッドに拾い置く夢にて聴くや夜の木枯し 中村ま寿子
なに一つ変わっていない川底にキラキラ嘘が沈んで積もる 森崎 理加
滑稽と骨董ともに掌に確かめ歩く終い弘法 宮本 照男
踏破した槍ヶ岳への岩肌の感触を消す歳月の壁 木下 順造
夕雲のひろがり青空隠しゆく大津の町に雨気のにおいす 国友 邦子
防寒着のごとくきっちり葉を覆い白菜括る冬を耐えよと 今野惠美子

◆平成30年2月号 佐田 毅 選
一九年五月一日改元の記事昭和・平成さてその次は 村尾 道生
みどり児は瞳およがせ母の目と合えば見上げて乳を含みぬ 三上眞知子
いつよりか夫の墓前にうたを詠む逝きてすぎゆく日々の身の糧 吉田 和代
迷うことなきよう今年も手帳買う余白の広い広い余白の 渡邊富紀子
良い歌につられてできる歌もあれその言霊を点滴として 中田 伸一
晩秋の雨のひと日はうつうつと負の思考連鎖断ち切り難し 奥井満由美
いつからか合掌の癖身について心の安らぎささやかなゆとり 富安 秀子
犬のみの留守居の庭に唯一つ成りたる柿を息子()の持ち呉るる 田上 治子


◆平成30年1月号 高貝次郎 選
杖を持ち駅のホームにちんまりと亡夫(ちち)が座っているような夜 高橋美香子
墓場まであと何(マイル)とろとろとそんな言葉の似合ふ秋の日 臼井 良夫
ゆっくりと羽根を拡げる白孔雀ジュディオングの衣装さながら 田中 昭子
狭量の吾に敵をば作るなと今宵の夫はなぜか隠しき 渡辺 茂子
奥入瀬の滝の響きに応へつつ釣舟草は小舟をゆらす 有田 秀子
寒いねとベランダに立ち言ってみる洗濯物は乾かなかった 渡邊富紀子
スカートを試着し心で呟けり太る予定はもうありません 石川 文子
澄みわたる裏磐梯の秋空に腕を広げて深呼吸する 篠原 和子


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