作品紹介
八 首 抄
■平成29年7月号 渡辺茂子 選
蹲に花びら一面浮かばせて春は音なく移りゆきたり 広瀬美智子
東京五輪・覇王樹百年・われ九〇、二〇二〇年は道なほ険し 鈴木 和子
幸せだ満開の(はな)を仰ぎつつ忖度なんて吾に関せず 山中 貞三
花の枝にふれつつ登る機関車は昭和時代が立つ花のとき 吉田 和代
人生はまさしく川の流れです水が涸れたりれたりして 高貝 次郎
ポップコーンが弾ける様に孫娘何につけても笑い転げる 大野 雅子
恐竜の如き姿と眺めをり又コンクリートに重機噛みつき 川口 六朗
白魚の吸い物・天ぷら・踊り食い春の潮は総身めぐる 今野惠美子

■平成29年6月号  橋本俊明 選
恋をせし記憶が今ごろ血管をめぐる近ごろ少し字余り 高田  好
寺子屋の三十年余の歴史あり子らの成長吾子の闘病 西原寿美子
ギブアツプしてたまるものか手鏡に写る自分に笑顔を作る 成田ヱツ子
教科書を持つて逃げたよ裏山にB29先生にしがみついたあの日 伊藤 絢子
咲く花も散る花も色保ちつつ春の光に堤は笑ふ 広瀬美智子
今なれる歌くり返し暗唱す男爵芋の芽をかきながら 清水 典子
なつかしきわが生業のバービーも思はれつつも並べ置きたり 金山惠美子
咲き咲かず咲くや咲かずやじらしをる病夫に見せたき今年の桜 佐田 公子

■平成29年5月号  臼井良夫 選
くるくると回る魚の群れの中少年がいる私がいる 高田  好
影売りし男ありたりわれもまた影を忘れて幾日すぎたり 渡辺 茂子
一本の電話が繋ぐあたたかさ代りばんこの声が流れる 児玉南海子
蛇口から水飲むオレをあざ笑うお前を笑う未来のおれが 森崎 理加
ひんがしの雲を二つにこじ開けて近江平野の帷明けゆく 宮本 照男
夕暮れに逸れし鴨の遅れては水脈を曳きつつ群に入りたり 伊関正太郎
はたはたと家族の服のはためいて一日過ぎるベランダの春 渡邊富紀子
尺八の音色哀しく雪の降る一月尽の空気冷たき 北岡 礼子

■平成29年4月号  水谷和枝 選
「歌の種探しに行こ」と脳の言へば「今日は休も」と膝が答へる 高田 香澄
干し菜風呂沸かし呉れたるわれの為亡祖母(そぼ)思う夜を雪降り初めぬ 木戸千代子
ガラス戸を揺らして迫る大寒の風の強さに身がまへて寝る 谷脇 恵子
百迄と賀状に息子()らの書き呉るる後五年半()たせて見せむ 田上 治子
「カワイイネ」友が自慢のインコ二羽かわる代わるに世辞喋るなり 中村ま寿子
ほほほほとあやせばじつと見つめゐてにこつと笑ふ曾孫四ケ月 清水 典子
恵子、久子、修と俺で五時間を語り会ひたり時間が足りぬ 高貝 次郎
真夜に聴くナースコールのやはらかき音の蛍となりてとび交ふ 毛呂  幸

■平成29年3月号  広瀬美智子 選
この川は幾つの橋を抱くのだろう海に入るまでの遥かな旅に 児玉南海子
降りしきるくれない落葉春日野にいまだ夢見る歩をはこびたり 帯野寿美子
何時だってカメラの前では微笑もう冗談言ひつつ遺影の準備 佐々木礼子
絶え難く全て失ふ受難にも日本死ねとは言はぬ東北 木下 順造
獣にも人にもなれぬぬらぬらと灯りのもとに山月記おく 森崎 理加
少し気取って歩くわよ夕暮のホテルのロビーおニューのブーツ 山口美加代
初恋を言ひつつ皆に酒を注ぐ彼はクラスの人気者なり 上野 安世
忘れあるキティちやんのサンダルを取りに戻る日待てどもう冬 浦山 増二

■平成29年2月号 佐田 毅 選
これの世の出口やいづへ窓近くながるる雲に身をゆだねたし 帯野寿美子
飛び石をこわごわ渡り幽界の戸口のような紅葉にあう 児玉南海子
週いちのヘルパーさんの掃除日を心待ちおり今日は誰かな 中村ま寿子
姉ゆづりの修身の本うつすぺらで親しみわかず手垢もつかず 有田 秀子
冷蔵庫の氷コトリと落ちる音ふと無事祈る離れ住む子の 高橋美香子
見上ぐればブルーグレーに暮れる空落ちくる闇に身を溶かしたい 三上眞知子
高尚なる趣味の短歌と揶揄さるれどまだまだ遠き位置の存在 吉田 和代
折り紙に習ったばかりの「好」を書き私に宛てた手紙くれる子 渡邊富紀子
■平成29年1月号 高貝次郎 選
はちじふとさんくわい目の秋中空に精霊(しやうりやう)蝗虫(ばつた)飛び立ちにけり 臼井 良夫
二週間四週間と日の経つを飲める薬の残数に知る 村尾 道生
十区画の畑それぞれに競い合う人柄見せて作物並ぶ 村尾美智子
郭公の啼く声遠く聞きながら青田の風に吹かれて歩く 佐藤 愛子
いつの日かきっと会えると待ちし日々月下美のようなあの人 浦山 増二
居久根から居久根まで張る蜘蛛の巣を壊すをためらい遠まわりする 草刈あき子
鬼婆を鎮める寺に里親のなき三匹の猫の寝ころぶ 金澤 憲仁
紙屑になってしまった株券を未練がましく金庫に入れる 田中 春代

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