作品紹介
覇王樹 選歌
◆平成31年 1月
  本門寺長い石段昇り切り振り向けば秋  亡母(はは) 生れし街 三上眞知子
  労はるることを重荷と思ひたる小さき自負を持て余しをり 渡辺 茂子
  あの窓のひとつひとつにあるドラマ仮の宿りを明るく灯す 児玉南海子
  毎日の嘆きに過ぎぬ歌いくつ手帳にメモし今日締めくくる 佐々木礼子
  バーゲンの幟をたてるペットショップ成犬前の在庫処理とう 高田 好
  また逢ひて結婚しますかと夫に問ふ未だみぬ国の穏しくあらむ 友成 節子
  潤兄(じゅんにい)はここに居ることそのことが生きる理由と子らに教はる 西原寿美子
  古テレビの中なる騒ぎわが家には縁もゆかりもなきハロウィン 橋本 俊明
  眼を離すうちに忽ち暗くなる霜月の空不可思議な空 佐田 毅
  胸板の汗をふかざる白鵬と力を込めて拭く栃ノ心 高貝 次郎
  シューベルトの歌曲を愛すマスターはいづこでなにを偲びつつ佇つ 岩井喜代子
  二〇一五経済誌特集に騒がれしピケティ理論最近聞かず 村尾 道生
  請うような魚の眼に見つめられ振りあぐる出刀一瞬ひるむ 藤峰タケ子
  公園の赤き落葉を踏みながら吹きくる風を存分に吸う 篠原 和子
  可愛いは悲しいと似ていると小3の子の語る口元 森崎 理加
  ほころびを隠したままで少年は風の向こうの湖に問いたり 宮本 照男
  とほき日の片恋おもへり白き雲浮かびて車窓に(ひら)く瀬戸内 山北 悦子
  もう少しほんの少し元気になったら旅に行く筈だった男 山口美加代
  メダカさん七日の留守番ありがたうさあ召しあがれもぐもぐタイム 井手彩朕子
  学校のブロック塀は工事用フェンスに代わり〈危険〉の色に  小笠原朝子
  何にでも付けたい気持ち今日もまた平成最後とバスの旅行く 松下 睦子
  あじさいの藍色しずめにわか雨間奏曲の苦き幻想 渡辺ちとせ
  特攻兵は開聞岳をひとめぐりしては祖国に別れを告げぬ 有田 秀子
  それぞれの身の上話もあるらしく落ち葉は背戸の隅に寄り来る 永田賢之助
  病人は気難しくなりわが心おれそうになる日が増えてゆく 北岡 礼子
  エノコログサ道の片辺に群れ群れて風吹くままに身を委ねいる 国友 邦子
  一ミリも変わらぬ位置に錦帯橋我ら母校も遠くそびえる 高橋美香子
  長崎のお米は甘くて旨いとう孫よ日本はお米の国ぞ 田中 昭子
  ちりちりと日がな一日雨ふりて冬を誘う霜月に入る 中野 悦子
  桃色の三葉の花にシジミ蝶とまる止まらぬ思案の戯れ 南條 和子

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