作品紹介
覇王樹 選歌 
◇2021年 4月号 選歌 
外つ国に赴任の内示娘は母へ母は最後にわれに伝ふる 橋本 俊明
大寒の空を敲けば如何鳴らむ寒乾換閑かんかーんかん 毛呂  幸
霊園の木立の影立つ湖に命の限りさざなみ寄する 吉田 和代
お茶を飲めとしきり勧むるベッドより今も変はらぬ長姉(あね)の風格 渡辺 茂子
雪だけが魔物のように生きている視界を白く覆い尽くして 児玉南海子
マスク跡二本の線が消えぬ頬訃報の知らせに涙が濡らす 高田  好
池底の影のごとくに冬の鯉水の重さに抗いもなく 髙間 照子
今夜またブログの記事が仕上がったベッドサイドの小テーブルに 吹矢 正清
去年の春知り合える人の鼻と口いまだに知らず挨拶交わす 三上眞知子
風の神かぜの気配を残しゆくさわさわさわと風のはく靴 宮本 照男
すぐにでも飛んでゆくのに君はいう「回転ドアを回し続けて」 森崎 理加
子らの声去りたる路地の雪だるまマスク付けたる小ひさきもあり 山北 悦子
水やれば初心(うぶ)小さくふるへる白き花あの日のなわれかも知れぬ 今畑 敏子
コロッケに里芋入るを気づかない十歳の()ににんまりとする 岩本ちずる
六人の六通り選んだ海鮮丼テイクアウトにはやる土曜日 浦山 増二
ひき逃げの事故と認めた容疑者の言葉を刻む当直の夜 木下 順造
花シャコバふふむ花芽に明日を待つ明日とて開く確証もなし 松下 睦子
新年をコロナ逆襲はやりなる色マスクせる政治家の群 渡辺ちとせ
都のあかりビルの電燭皓皓と原発避難未だ二万余 伊関正太郎
マスクして口の表情見えぬまま店員寄り来てコート奨むる 井手彩朕子
「主役の座とつたり」といふ見出し記事大栄翔のわざの「とつたり」 高貝 次郎
資生堂かたむくなかれ欲りつつも買へぬ品々にあこがれて来つ 高田 香澄
疫病の退散祈願の拍手を雪の木立の神が吸い込む 永田賢之助
ポスターは二十年間貼りてあり消えし少女はいまだ帰らぬ 川口 六朗
水色のみどりの水の深き場所苦しむ日にはしばし潜りに 古城いつも
黒豆の鍋の火加減弱めつつ雨樋つたう雪の音聞く 田端 律子
「寒ない」と言い張る孫の声残し編み本探す吾も反抗期 上中 幾代
風吹けば枯れ葉ころがり黒鳥となりていきなり我が足襲う 清水 素子
せめてもの口紅だけが武器だったコロナ禍のわれ丸腰でござる 高橋美香子
いま時間大丈夫ねと確かめて逢えぬ分だけの長電話する 中村ま寿子


◇2021年 3月号 選歌 
感染力の強さはまさにメドゥサよその首刎ねよコロナ封じよ 成田ヱツ子
男の様に節高太い己が手を無骨な心で撫でて生き継ぐ 松下 睦子
不要物となる物らを探し出せば停滞していた空気が動く 山口美加代
トラトラが脳裏に残る十二月八日をめくるけ寒き朝の 臼井 良夫
イチロー氏なにか資格を得たるらし百歳まで五十二年もありて 高田 香澄
田になすと明治の先租が埋めしとふ名残の堀に鯉を泳がす 友成 節子
心根のつよき花なりランタナは切らるる度に根元太らす 南條 和子
友の詩の「行くぞ」の一句繰り返し朝早く行く再検査へと 吹矢 正清
べっぴんでしっかりものの女将いる昭和の匂う露路のどんつき 宮本 照男
正月の前より並ぶ七草のフリーズドライをカートに放る 渡邊富紀子
子に残す物なきわれの抽出しに大事に仕舞ひしへその緒三つ 今畑 敏子
図書館の絵本コーナに居るはずの母子の姿空っぽのまま 小笠原朝子
パーティー後の羅患なしやと目覚めては指折り数え一日始まる 永田賢之助
先のこと悩まず今を集中す二人の遺影に誓ひし朝 西原寿美子
サプライズ花火鈴鹿の四囲焦がしコロナ最多のイブの夜咲いた 橋本 俊明
覇王樹の更なる未来思はせて紡ぎゆかなむ吾もひとりと 渡辺 茂子
困ったら逆用するのも手管かとスマホ片手に君を呼ばんか 渡辺ちとせ
降車時に命失ひし娘を思ひあの一歩さへにこだはりてをり 井手彩朕子
奇特なる人か茶化しの心象かお地蔵様はマスクで柔和 大森 孝一
十両で二十九年振りとなる居反りで勝つた宇良うらうらら 高貝 次郎
右ひだり揺れてしきりに考へるエノコログサの優柔不断 岩本ちずる
捥ぐ人のなき庭先のびわの実のたわわに実りいろ深めゆく 田中 昭子
「また来るね」形見と思へる口紅を引けば鏡は涙でくもる 常川  緑
とり肉をクリスマスしか食べられぬ国にいるかのケンタの長蛇 三上眞知子
神様が、神様がいるのあの山に昔話は灯油の匂い 山内可奈子
しんどいと伝えに来たる妹を助けられない私もしんどい 高野 房子
ご神託述べるわたしの経営者腹は立ってもマックのポテト 古城いつも
ザワザワと波がゆれいる橋の下バシッと水が大声立てる 清水 素子
亡き父の使い古したタオル出し良き年願い窓を磨きぬ 高橋美香子
越ゆるべき道に迷ひて十二月何度迎へて何度迷ひて 土屋 紀生


◇2021年 2月号 選歌 
汚染なき国東半島に住みゐるに海を距てて原発近し 友成 節子
茫々と過去となりゆく冬茜独り歩むを見守り賜え 松下 睦子
歩けども三日月との距離縮まらずどの屋根の上にもつぎつぎ三日月 三上眞知子
下げてゆく柿の実一つ友の待つ駅前広場(うみ)の匂ひす 渡辺 茂子
ホムホムのフムフムの声聞きながら雪の三時を眠りに入る 臼井 良夫
一石を投じし人が限りなく広がる波紋の外へ逃げゆく 栗山 恵美
魂を転がすように冬雷が夕空低く鳴りひびきゆく 児玉南海子
駅までの信号全て青に会う今日の私は晴れ彩で行く 高田  好
ガンバレと又これからも頑張れともう充分に頑張ってきた 高橋美香子
ドラドラと飲んでも食べても人は今ウイルスコロナに試されている 田口 耕生
冬に入るコロナ籠もりを抜け出して鳥海高原枯れ野を走る 永田賢之助
この地球君臨するのは人間と昨年迄は信じてをりしが 成田ヱツ子
迎えに来てくれた車へ「待った?」と声をかければ妻ははにかむ 吹矢 正清
白川のながれに沿いて影にそい秋の齢にそいて過ぎゆく 宮本 照男
この次はもっと素直になりましょう何度も何度も私を生きる 森崎 理加
日々に見し鼈甲店はすでになくふと浮かび来る黒塗りの壁 山北 悦子
選択的拡大言ひて拓きたる山の畑のミカン色づく 上野 安世
あの頃は家並も低し青空はすつぽり瞼を占領せしかな 今畑 敏子
色カタチ楽しむ人ら往き来して市民権得たりマスクマスクは 富安 秀子
目薬を一滴さしたまばたきにひんやり秋の訪れを知る 髙間 照子
灯に光る軍艦島を眺めたり鶴の港を西へ進みて 高貝 次郎
子や孫に狸寝入りを決め込むと菓子の袋の大きな裂目 渡辺ちとせ
チューリップの球根埋むる吾の背をとろりとろとろ秋陽が撫ずる 青山 良子
何ごとも時など経れば忘れ去る雨に崩れる「アベノマスク」よ 伊関正太郎
千キロのわが運転に揺り揺られアカテガニ五匹元気に動く 井手彩朕子
晴れ渡る秋の青空見上げゐつ仕合せの雫落ちくるやうな 岩井喜代子
耳底に神輿太鼓の現われて取り止めの今日酢飯をにぎる 田端 律子
知る人と言えるのだろうか八ヵ月マスク顔しか知らぬまま過ぎ 小笠原朝子
イヤリング付けて出かける機会なく捨てる捨てないゆれる思い出 奥井満由美
朝ぼらけ光り差し込む湖の風の去り行く玻璃のさざ波 木下 順造


◇2021年 1月号 選歌 
コロナ禍の禊としばし名月に包み込まるる今宵のわれは 斎藤 叡子
赤ちゃんの心音に似る根から昇る樹液の音を耳当てて聞く 高田  好
ひたすらに会ひたかりしとのみ思ふ子の葬の日を籠るコロナ禍 広瀬美智子
何処までも青さ広がる十月の空に一人の想い遊ばす 松下 睦子
駅までを追ひこしてゆく幾たりかみなそよがせるかなしみの(せな) 渡辺 茂子
約ひと月感染ゼロの宮崎の地上くまなく照らす月かげ 青山 良子
来るはずのなき良き便り待つように郵便受けはほの明りする 児玉南海子
子を乗せた若い父親の目立つ夏 自転車こぎて坂のぼりゆく 清水 素子
新しき生活様式・新コロナ新に疲れて向かう新年 高橋美香子
サンマ焼くクックパッドのレシピ集結局焼いておろしを添える  髙間 照子
すすき野の日差しかたぶき短日の黒毛和牛ら残る草食む 永田賢之助
子の妻がLINEで教えくれたこと二階窓より名月を観る 吹矢 正清
食べ切れぬ餌を埋める犬のごと不用の服の上に服積む 三上眞知子
少女らは貝殻骨を膨らませ心の透けるほどトランペット吹く 森崎 理加
過ぎ来しの事は事としこれよりの「わが取説」を亡夫に聞かせる 山口美加代
元号を(よつ)つ跨ぎて見えて来る人の命と地球の重さ 大森 孝一
ありありて卒寿の道を歩むらむ今日をあしたへ影引きながら 西尾 繁子
自分らしく生くればよいと語る母栗をむきつつあの秋の午後 矢口芙三恵
悩みつつひとつふたつと手放して大海知らぬ蛙の如し 奥井満由美
文芸を不要不急といふやからそれが今流政治家らしい 高貝 次郎
キンポーゲの花に寄りゆく紋白蝶かすかな揺れを残しつつゆく 友成 節子
口紅は不要となりぬ違和感なく必須アイテムのマスクをかけて 中村ま寿子
目陰して仰ぐ相輪黙ふかく古塔の上の雲ちぎれゆく 財前 順士
ひと息に秋は来たりぬミキサーの陽だるまのなかスダチが香る 田端 律子
命にも期限があると知らされた夏が二人を遠巻きに見る 山内可奈子
夫逝きて十年(ととせ)の日々を人形は箪笥の上に立ちつくすまま 今畑 敏子
マスクから笑顔のもれるレジの(ひと)茄子もトマトもいたわるように 浦山 増二

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