作品紹介
覇王樹 選歌
◆平成30年 11月号
 
納骨を終えたるあとの空の青そこに夫の微笑むごとく

田中 春代
  手離ししピアノは何処に奏づるや娘らの指跡いつしか消えて 谷脇 恵子
  飲物も食事も執らず壁紙を貼り替へ呉れし経師士寡黙 水谷 和枝
  「戦争は絶対駄目」と孫に云ひ罹災・艦砲はつぶさに云へず 鈴木 和子
  右を見て左を覗き掛け声も老舗寿司屋の暖簾を潜る 宮本 照男
  駅前の広がる畑に茄子トマト美美なる彩に空気のうまし 石川  梓
  噴水のてっぺん極めて繰り返す私のなすこと半ばの多し 髙間 照子
  やっと来ぬ自死せし朋の赤城山不可解六〇年霧たちこめぬ 山中 貞三
  一坪の庭園に咲く紫陽花の白の記憶は消ゆることなし 佐田  毅
  あれ程の敗戦の痛み忘れしやそぞろ軍備を増す気配あり 成田ヱツ子
  この鍵で千の扉を開けゆけどあなたも私もどこにもいない 森崎 理加
  大いなる器なりける三十一文字こころころころ転がして盛る 山北 悦子
  平和とはまことに都合良き二文字戦争の隙聞を埋めて生き継ぐ 石橋 謙三
  風にさえ鎌ふり上ぐる蟷螂よそんなにむきにならずともよし 青山 良子
  霧が濃くこれつぽつちも海見えずありすの風はどこを吹くのか 高貝 次郎
  薄暗い小劇場の非常口女がひとり煙草銜える 渡邊富紀子
  ねばならぬ読書に倦みて本をおく 今夜もカップの氷菓を食おう  吹矢 正清
  カタログをめくるが如く読み終えるある種の短歌ある種の詩篇 古城いつも
  わが腕に上りて来たる家グモを弾き飛ばせば死んだふりする 川口 六朗
  影連れて帰途の夕べに花槿決断できぬ蝶が揺れ舞う 松下 睦子
  猛暑日の地下鉄の中も人多し仕事があれば行かねばならぬ 清水 素子
  公園の柱時計が陽炎に伸ばされてゆくダリの絵に似て 高田  好
  干し梅のかほり漂ふ庭に聞く鳴き沈みゆく蜩の声 友成 節子


◆平成30年 10月号
  しめり来て湿気る畳の色語り転居後の星霜二十年経つ 橋本 俊明
  生き伸びて今も変わらず彷徨える我を照らせよ凍てる夜の月 松下 睦子
  「お浄土に羊羹はあるの」かく幼さの上に成りたる今ぞ忘れじ 渡辺 茂子
  中ぞらの何視てきしや噴水は伸び上りてはくずおれており 青山 良子
  八月の暗き緑に思ひ出す国防色といふカーキ色 臼井 良夫
  よぎるのは被災の町の人達の涙を枯らし汗する姿 木下 順造
  7度目の震災短歌会少しだけ明るさもあり孫詠ううたに 児玉南海子
  どこまでも根を伸ばしいるドクダミを引き抜く今日は闘う日なり  篠原 和子
  冷や汁を作らんとして刻みたる大葉の香り厨にしるき 佐藤 愛子
  ひたひたと石畳ゆく神宮の森の広さに包まれながら 清水 素子
  入口の小石除けば蟻どもは素早く穴へ逃げて行きたり 川口 六朗
  盆に来る真赤なスイカ頬張った遠き日本の真っ直ぐな夏 高橋美香子
  君の街ツツジ一杯咲きたるやつつじヶ丘の一丁目一番地 浦山 増二
  文月には合歓の匂へる庭先で遊べる子どもの幸福願ふ 石川 文子
  亡き母に万年青の活け方習ひにし十二の春の吾が膝小僧 佐田  毅
  それぞれに薬効あらむ錠剤をいのちあずけてゆっくりと含む 田中 春代
  百迄と息子()らに言はるるこの日頃九十六歳頑張つて見む 田上 治子
  耳近く囁くは誰ぞ地下壕に未だ潜むか兵隊の霊 成田ヱツ子
  跨線橋昇ればぐっと夏の雲ハンドル握る前に迫れり 三上眞知子
  君のため叱られるという喜びを知ってしまった小1の夏 森崎 理加
  二階より降ろせぬピアノ壊しゆく音はひびけりさながら悲鳴 山北 悦子
  百か日過ぎれば笑う日の多く陽と水をもらうラベンダーのごと 山口美加代
  ステテコは白と決つていたはずがその青をはき旅に出かける 高貝 次郎
  夕暮れてカレーの匂いする方へ子供の時間おとなの時間 宮本 照男
  みづうみの畔の紅の管状花あざみ一叢夏を告げゐて 渡辺 千歳
  秀子さんと吾が名呼ばれて目覚むれどだあれもいない特老個室 有田 秀子
  ローリエの若葉を摘みて風に乾す三月経て逢ふひとりの為に 小西 喜弘
  ひこばえの青む田の面を矢の如く飛びたち消ゆる一瞬の間に 清水 典子
  最後までちゃんと舐めます棒アイス舌先に残る木の味は夏 渡邊富紀子
  週明けは新しき朝と呼ぶべけれ銀行郵便各社窓口 古城いつも
  行くときも同じ日陰に眠りいし蟬の亡骸跨いで帰る 石橋 謙三
    
◆平成30年 9月号
一人居の嫗は長生き褒められる微笑む時に寂しさ見たり 佐々木礼子
いのちある証と聴かむ真夜中の君のゆまりのかすかなる音 高田 香澄
褒めことば一身にまとい盛装を脱ぎ捨てるごとぼたんは散りぬ 髙間 照子
押し入れにずっと隠れていたあの日ママが呼ばないカレーの匂い 森崎 理加
あかねとふ和菓子購ふやはらかにありしひと日の名残りのごとく 渡辺 茂子
さりさりと髪切られいて梅雨さ中こだわり一つ徐々に解けゆく 青山 良子
耳底の砂粒の如き静けさにアカシヤの花夜を鎮まる 臼井 良夫
今も尚「丁度良いのが丁度良い」教師の声の耳底にある 木下 順造
かたばみの花より淋し離れ住むゆゑに日にち薔薇を育つる 友成 節子
この先も続けますかと書き添えて同期の会のメール届けり 永田賢之助
えいえいと捨てゆく写真過去(すぎゆき)を削げるがごとく葬るごとく 山北 悦子
此処かしこ光り耀ふ蒲公英の数多の球の小さき宇宙よ 伊関正太郎
毎日の首のリハビリしてくるる粛敬の師を静かに迎ふ 佐田  毅
隣家にありたるポスト撤去され温もり一つまたも消えたり 佐藤 愛子
ダイアナをわすれな草に追憶しブーケを持ったプリンセス立つ 清水 素子
メトロへと降りゆくわれの胸元をはつ夏の風さやかに通る 鈴木 純子
背広着て鎧えるように見えし肩そに角はなし食器を洗う 高田  好
スッパリと都心の生活切り棄てた娘と降り立つ店も無き駅 高橋美香子
危険とは気付かぬままに休みたりブロック塀に凭れてしばし 南條 和子
トレイふた肉ぶた本体トレイふたカステラ本家福砂屋最中 高貝 次郎
書き出しの先ずは冠省さてさてと高校野球へはずめるテレビ 渡辺ちとせ
山法師の白きが遠くより見えて青葉の谷は人目を攫ふ 小西 喜弘
化粧され人馬一体歩みくる観衆の目をくぎ付けにして 吉川 恵子
「今更何を言うのです」自らに老い先を問う翳る夕日に 松下 睦子
目尻には午後の疲れの溜まりきてねぎらふ言葉のひとつほど欲し 石川 文子
       
◆平成30年 8月号
ギザギザの足の爪先均しいるまん丸姿の吾と思えり 児玉南海子
更新の運転免許眺めつつ三年先を誰も知らない 佐々木礼子
連れ添ひて68年手をとりて桜吹雪を浴びつつ歩む 清水 典子
使はないもの(・・ )に囲まれ見回せり今使ひたい消しゴムがない 山北 悦子
すずかけの固き実ころがる石畳去年(こぞ)の落とし子拾ひてゆかな 渡辺 茂子
何処へもゆかずかえらず黙し立つ庭木は愚痴ずわれを包むよ 青山 良子
ローレライのメロディー流れ新緑の街に隈なく正午が到る 臼井 良夫
嘘をつく嘘だと知ってつく嘘を望遠レンズがつぶさに写す 小笠原朝子
独り居の男の家の閉ざされて感情的な物言いとなる 渡辺ちとせ
心して歩む思ひを無視されて足の小指は家具に当てたり 成田ヱツ子
頂ける初筍を茹でおれば去年の匂いの懐しさ満つ 上村理恵子
鯉のぼりは新築の窓に泳ぎいて小さな家の庭をながめる 才藤 榮子
よろよろと転べるままに空見ればうれしや五月五月晴れなり 矢口芙三恵
カーナビを頼りにめざすバッハホール麦秋の道心はずめり 今野惠美子
人づてに聞きし親しき友の死よ住所録より省かずにおく 佐田  毅
今日もまた風にのりくる子らの歌我の母校の校歌のようだ  草刈あき子
水無月の風にさ揺らぐ白紫陽花汝のごとくわれは生きたし 佐田 公子
欠席に少し小さき〇をつけ夕べのポストにゆっくり入れる 田中 春代
海外のお相撲さんを親方にしない道理は果して無理か 高貝 次郎
たつぷりと数多のばらに水を撒く五月の空の澄みわたる朝 友成 節子
ひとときの悲しみも世俗に呑み込まれわがためのわがひと日は暮れぬ 橋本 俊明
さまざまな花咲かせゐる家多く日本の平和を分けゆく車 広瀬美智子
婚の年は万博の年だった太陽の塔は甦り男は逝った  山口美加代
「みみずさん男も女もないんだよ。だから恋もしないんだって」 渡邊富紀子
皿洗い途中に襲う虚脱感ふかくふかくて身慄いをする 吹矢 正清
子育ては卒業してもゆるやかに父の顔してゆく五月祭 中田 伸一
嘘だらけのネット社会のはずだった本名を知るフェイスブックよ 古城いつも
値の下がる三つ葉こんもり俎板に刻めば旬の香り逞し  三上眞知子
口角を上げるかたちを作り上げテンプレートとして売る女たち  森崎 理加
引き上げる紅茶がくるくる回つてる毛糸に夢中の子犬のやうに  石川 文子
のぼり来る学生たちの自転車を自転車下りて見送る歩道  奥井満由美

◆平成30年 7月号
陽炎は低きカノンを曳きながら春の娶りの庭にゆらめく 臼井 良夫
散りかかる花びらを背に試歩の間も包みてうららうぐひすの声 大森 孝一
砂丘とはかなしきものよ人々の足に踏まれて形変へ得ず 金山惠美子
邪悪なるメディアの笛に国民はぞろぞろ海に進む鼠か 川口 六朗
人は皆抱き締められず人生を終えると知って我が身を抱く 木下 順造
たまゆらの幻だったか散り果つる桜の花片一つも残さず 児玉南海子
つるし置く冬玉葱の青い芽は明るい方に向いて伸びゆく 今野惠美子
暮れなずむ町にシニアの影うすく豊洲は次世代専属の街 鈴木 純子
もう少し生きられさうな二人なりパセリの苗と夏帽子買ふ 高田 香澄
渡り鳥鳴きつつ去りぬ空の下行けたら行くと言う人を待つ 高田  好
その角を曲がれば開く未知の道猫も小鳥も己が影曳く 渡辺 茂子
こんなにも細くて長い列島に表裏がありて春と冬すむ 小西 喜弘
よくもまあこんな隙間に蒲公英が 促され乗る介護タクシー 毛呂  幸
春愁はボタンホールを潜り抜け郭公の声晴ればれと聞く 佐藤 ふみ
やがてくる終の日までつけようと六十余年つづくる日記 草刈あき子
霜除けの風車いくつも回りをり若葉となれる広き茶畑 佐田  毅
マンションの足場組みゆく職人に見惚れをりたり小一時間も 岩本ちずる
アクセルとブレーキペダル違えたるそんな生活幾たびありしか 浦山 増二
とりわけて薄紫が好きだった亡父が塗ったような夕空 高橋美香子
どうだんの花のこぼれのしろじろと地にまぎれざる幾日の白 青山 良子
貴乃花をひとり相撲といふ世間独り相撲は俺もそつくり 高貝 次郎
星空より聞こえて来さうなハイネの詩さびしき時は耳を澄まさむ 友成 節子
指先に架空の音を押しゐつつ鳴ることのなき曲懐しむ 広瀬美智子
聞きのがし言ひのがしたること多し春愁の闇に影の移らふ 橋本 俊明
大方はシニア達なり船上に一期一会の出会いを乗せて 松下 睦子
懲りもなく閑暇の時間もて余す大き車に小さき遠地図 渡辺 千歳
「失敗は成功の元」と唱えてもやっぱり凹む二日は凹む 渡邊富紀子
雨降る夜ひたひた音のせまりくるような死の怖さムンクの叫び 北岡 礼子
じゃあ又ね、手を振り返す日暮れ時未来は不確かそれでも「またね」 三上眞知子

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◆平成30年 6月号
ほんのりと光流れて弥生尽今年の桜われに満ちたり 渡辺 茂子
定説は覆えるとも信長よあなたはやはり短気が似合う 児玉南海子
きらりきら千万煌めき乗せてゆく正月二日の小川の流れ 清水 典子
水底の流れに揉まるるビー玉のように光りぬ着信メール 高田  好
ルルルルル早春のベル鳴り始めピンクのセーター着てみたくなる 髙間 照子
十歳の時より田を鋤き家守りしを夫はわれにも言ひしことなき 友成 節子
体力も知力も落ちたこの吾を頼る社員の腑がいの無さよ 南條 和子
「あなたが噛んだ小指が痛い」爪無き指に歌ひかけをり 橋本 俊明
幼児のごとく言葉をかけられてデイサービスにから廻る何か 広瀬美智子
春の陽と遊ぶ小さきコップありいつより墓石に置かれたるらむ 山北 悦子
知らぬ間に背中合はせの豆雛を直せり ながくむつみたまへな 高田 香澄
見晴らしの秘湯に真昼浸る時解凍されつつ胸襟開く 田口 耕生
点訳の頃思い出すあの月日なつかし童話書店にならぶ 今野 和子
着用を心に決めて往来をワインカラーのコートは歩む 吉田 和代
鄙びたる漁村の宿にかり寝して十六夜の月にもらひ湯にゆく 金山惠美子
子らに読む本選びつつ思うこと絵本知らずの吾が幼児期を 小笠原朝子
満開の限りを知らず上流の花筏くる落合の堀 佐田  毅
玄関の上り框に腰掛けたあれは押し売りだつたかもしれない 石川 文子
身長が縮んだと言えば幼子は光を背に笑いころげる 国友 邦子
昨夜までしきりに鳴りし電話さへ元日なりと静けさ保つ 渡辺 千歳
留守番の花に声かけ鍵開けるリハビリを終え帰りたる昼 青山 良子
蓑虫が鳴くといふ春ちちよ父われはあなたの背中を知らぬ 臼井 良夫
昔日の暮しもときに恋ほしみて夜の明かりを疎むときあり 小西 喜弘
初場所で化けてしまつた栃ノ心どの一番も真つ向勝負 高貝 次郎
別れあり出会いもありぬこの四月子育て広場に春の陽の射す 松下 睦子
朝ごとに妻の焼きくれる薩摩芋一つは無言の励ましだろう 吹矢 正清
ゆらゆらと人をまどわす桜花鬼がやどるか吾のうちにも 北岡 礼子
長々と語ることせず清楚なる白い椿を手折りてくれる 清水 素子
本日も真っ赤なショルダー斜めにかけ夫は行く行くシルバー大学 高橋美香子
亡き夫が子をば頼むと逝きまししその娘に今は吾が頼れる 西口 郁子
しらす干し針先のごとき黒点のその目が見てきた海を知りたし 三上眞知子
匿名を楽しむように独りして四条通りの人混みを往く 宮本 照男
靴擦れのひりりひりりを宥めつつ曲がった道ゆく二人の無言 森崎 理加

◆平成30年 5月号
ひもじさに目白、鵯、四十雀野性なくして餌を待ちてゐる 矢口芙三恵
わが市より格式上の大津なる寒の底冷え街を縮ます 渡辺 千歳
弱りたる足腰強化のバイク漕ぐ漕げこげ梓リズムを取りて 石川  梓
カタルパの白ひと色の花びらに翅震わせて揚羽の憩う 石橋 謙三
夕空にゆうるりゆるり鳶一羽ハムを持ちくる老女まちゐる 岩本ちずる
くつ箱はラ行の名前目立ちおり幸子よし子は何処にいきしか 浦山 増二
五つ株の水仙の根それぞれに配りて若者命絶ちたり 友成 節子
白菜も大根もみな雪に埋め北の二月はまだまだ長し 臼井 良夫
それとなく痛む胃のこと告げられし男のわれはつね迂闊なる 橋本 俊明
就職を伝ふる教へ子に笑みこぼる引つ込み思案の君の成長 西原寿美子
「幸せの会議中です」窓際のプーさん五匹朝日に並ぶ 三上眞知子
親も子も孫も三代くんちバカ彌栄祈る諏訪の大祭 常川  緑
雪は降る道にあらはに転がれるペットボトルの音の静けさ 佐田  毅
狛犬は灯籠の火に寛ぎのあうんで梅の祭りを嗅げり 石川 文子
語るたび消したき記憶次々と思ひの巡る齢となりぬ 伊関正太郎
白髪が似合ひますねと言ひくるる女性ら皆髪染めてをり 上野 安世
雪降らぬ町に降る雪早起きの子にだけ見えた真っ白な道 小笠原朝子
歳月は玉虫色の愛ならむ看取りし母の齢を越える 木下 順造
春雨は介護施設を包みふる木々の芽吹きを促しながら 小西 喜弘
わが脳裏駈け巡るらし〈A型菌〉レム睡眠の怪しい夢見 山口美加代
臘梅の硬き花弁に触れゐつつまた巡り来し春を恃まむ 渡辺 茂子
すこし食べたくさん眠り偶に飲まむ七度目の干支意のままに生く 青山 良子
ゆつくりと音符をたどる足どりに()をとるらしき一羽の小サギ 有田 秀子
ジョージアの風土をかもす栃ノ心序盤戦での五勝はほまれ 高貝 次郎
この時期は着ぐるみ病院傷ついて汚れた子等をリニューアルする 南條 和子
二けたの温度になると予報士は手柄のごとく明日を告げゐる 広瀬美智子
このひとのいいね!マークかの人の拍手マークに応援送る 吹矢 正清
初孫のあれよといふ間に嫁ぎけり門出を祝ふにこの寂しさは 鈴木 和子
木の陰がざわめき割るる何ぞあれ見るなの掟犯したるのか 高田  好
亡き父母の足の形を足して二で割りたるような吾の足なり 高橋美香子
パスワード打たねば見られぬ夢もあり煩悩菩提の石塀小路 宮本 照男
痛いとこどこもないから幸せと枯れ木のような手を振るあなた 森崎 理加

◆平成30年 4月号
銀座線丸ノ内線日比谷線ミライもカコにも行けない乗り物 森崎 理加
生れし家の仏前に焚く線香の煙滑らかに供花へ溶けゆく 佐々木礼子
物干しの竿に揺るるは人形の服かとも見ゆ、曽孫は広場 清水 典子
緩みたる老体のネジきっぱりと締めて今年の一歩ふみだす 今野惠美子
大根を引きたる暗き穴にちる散華のやうなひとひらの雪 友成 節子
彩りの淋しくなれる庭先に南天の実の紅さ際立つ 西原寿美子
他人事と思へぬ七十代の死も肯ひて生きる一日ひと日を 橋本 俊明
去年夫と箱根駅伝見てゐしを独り見てゐる広過ぎる部屋 広瀬美智子
雪害を聞くたびごとに詩の景が一つ一つと消えゆくうつつ 佐田  毅
ぐんにゃりと文字盤曲がる掛け時計針は指したり未来予想図 宮本 照男
竹生島の白蛇のやさしい顔だったこといつもそんな顔でいよう 山口美加代
嗚呼これが私自身の調べなり正月終わり静まる身の辺 吉田 和代
待ちあぐね雪見障子を押し上ぐれば白くふくらむ夕ぐれの空 石川 文子
雪の日に真つ赤なイチゴ頬張れば身体びくんと小さく震へる 岩本ちずる
廻りくる「雪やこんこ」の灯油屋に合わせて歌う隣りの仔犬 浦山 増二
目の玉の飛蚊の如く灰色の暗き空より雪の騒がし 川口 六朗
あの人もあの家もまた消え去るか古い団地の向かう道筋 木下 順造
渇きにも似て恋したる海の月独りデッキで風に吹かるる 松下 睦子
霜月のぶどう食みつつ仰ぎ見る空への喚起つねに鋭き 渡辺ちとせ
喜びを痩身に見せ輝ける亡妻の仕草の忘れ得ずして 小西 喜弘
モンゴル勢で成り立つてゐる相撲です八十二歳の婆さん強気 高貝 次郎
ムシムシと足音響く午前五時ムシムシ君の足音聞く朝 渡邊富紀子
学歴を外して頭外すとき優しきものの見えて来たりぬ 古城いつも
この先も日記書けるかまどいつつ年に一度の本屋に向かう 草刈あき子
曖昧な記憶としてあり初恋は通り過ぎ行く春風のにおい 高田  好
窓際のスズメバチの巣健在なり家主の優しさ冬日燦々 高橋美香子
いつまでを主婦と言うのか迷いつつ職業欄の主婦を囲みぬ 中村ま寿子
外聞も人目も気にせぬ気楽さよ古稀が私を自由にさせる 成田ヱツ子

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◆平成30年 3月号
雪かきの一つ加わるそれのみにわれの仕事の手順がかわる 藤峰タケ子
らんは犬吾は人にと生まれしも通うものあり冬日の中で 三上眞知子
編むとふはわが生き様か焦燥も虚無もひたむき一本の針 渡辺 茂子
夕ぐれて赤い灯青い灯信号の点れる眼下に今日も安らぐ 今畑 敏子
大阪に嫁ぎ五十年友はもうボケもツッコミも一人でこなす 児玉南海子
亡き猫によき日のありぬデジカメにみめよき猫と今も遊べり 高田 香澄
西山に午後三時半沈む日としがらみ尽きぬ師走を踏めり 田口 耕生
新聞の見出しはそのものずばりです「相撲協会未熟さ露呈」 高貝 次郎
人生の高速道路逆走に転がり行くは夢でありしか 松下 睦子
朝刊を読む楽しみは文芸欄投稿者の名いつしかなじみに 富安 秀子
国民の安けくのみを祈りたる皇居の杜の茨線哀し 中野 悦子
花も葉も実も赤のみを集め活けわがリビングに赤を競わす 村尾美智子
よくもまあ花火のあがる"大曲" 慣れいる我もときに驚く 田中 春代
逝く日まで口惜しき日々過ごしけん明け暮れて来し透析などに 佐田  毅
尾崎豊となるべき少年の通学路朝霞市溝沼四丁目の路地 山北 悦子
バスタブに身を開放しよいことを心に綴る冬至柚子湯 山口美加代
跨ぐとき口を開けたるクレバスに命縮まる飯田橋駅 石川 文子
ひと冬を耐えてそこまで春が来た梅の古木の花の芽の見ゆ 石橋 謙三
不安なるきもち鎮める術ならむICUの夫を詠みゐる 岩本ちずる
秋天にもの言いたげなはぐれ雲あいつの気持ち聞いてくれぬか 浦山 増二
じわじわとアメーバの如く広がるはテレビに映る雨の天気図 川口 六朗
厨房で哲学を語る女ありき昭和半ばの危ふき若さ 橋本 俊明
党名の換わることさえ疎ましく掲示板過ぐすすき穂の揺れ 渡辺ちとせ
短命の親の子にして七度目の戌年の庭に千両赫く 青山 良子
山の端の西日が不意に壁を刺し根源の如き寂しさの来る 臼井 良夫
厳寒に生死をかけて漁に出る民の無謀をはかるもむなし 永田賢之助
目尻より流るるしづく耳に受け夜長の夢に冬の雨音 西原寿美子
介護用ベッドは祖母の城になり枕元より干芋探す 渡邊富紀子
いつまでも小骨の残る心地する義母の葬儀のありし年終わる 北岡 礼子
蚊帳つり草かやつる野辺は冬ざれて寂しさびしとわれは山姥 今野惠美子
さみしき日図書館へ行く本の声あまた降り来て我を忘るる 高田  好
ハンバーグ三百グラムを平らげるラメ光る娘の目頭見ており 高橋美香子

◆平成30年 2月号
潤さんの生きる理由はその笑顔と言はれしことも遣る瀬なき宵 西原寿美子
いつだって胸の真ん中少し上 隠した気持ちがほとほと叩く 森崎 理加
持て余す思い一つそれはそれハロウィンの街は賑わう 山口美加代
縮みてはふくれる色に血管の私を統べる不思議なる筋 渡辺ちとせ
一点となりたる鳥が一条の光の中に溶けてゆきたり 臼井 良夫
冬の日を背中に受けて歩けるが小さな影がいつも我がまへ 川口 六朗
告白をためらうように山茶花の蕾のひとつが紅をほぐしぬ 児玉南海子
店閉じし蕎麦屋の軒にしおれたる白き鉢花いつまでもあり 今野恵美子
団栗の潜む櫟の落葉道君が踏む音、吾の踏む音 清水 典子
亡き父の残した赤目の木彫猫おまえもずっと泣いていたのか 高橋美香子
木蔭にも光を通す落葉樹妖精となる君に逢ひたし 佐田  毅
笑い声の転がるような英語文字カナダの住所を友知らせ来る 高田  好
君だけにそっと教えてあげようかあの望月の前の夜のこと 浦山 増二
癒え難き持病抱える原発に正月の雪積もりて消えず 石橋 謙三
ふと見上ぐ「敬愛一如」の扁額は結婚祝いに賜りしもの 村尾 道生
注文の料理くるまで腰浮かし覗き見ている鮭昇る川 玉尾サツ子
「女湯はもう入れん」と男湯へ六歳・十歳肩をいからせ 田中 昭子
嗚呼君のいのち絶えたる後々も生きて輝く人形たちは 南條 和子
空海の開きし山の頂きに背負えるものの荷を下ろし行く 宮本 照男
言葉得るヘレンおもへり幼子は絵本に指さすはな、いぬ、みかん 山北 悦子
こんなにも静かなままの夕餉なりスマホ操る孫を一喝 山中 貞三
こどもらがかはりばんこに投げ受けばボールは行き交ふ犬を見て居る 石川 文子
くり返し見ても飽きない故郷の町は変れど地図は変らじ 今畑 敏子
ダイエツトの器具やサプリの映像にばあば買はんねの切なき助言 岩本ちずる
お隣りの幼ら苗字で我を呼ぶ一息息吸い幼い声で 小笠原朝子
一本の鉛筆に書くは幾文字や芯削りつつ思ひ拡がる 広瀬美智子
離れ舞う落ち葉にも似てこの我も放され独り歩む荒野を 松下 睦子
一筋の銀杏落葉を踏みしめて安しと言へざるわが生き様よ 渡辺 茂子
夜香木君亡きこの世の夜を咲き黙って匂い黙って散りぬ 青山 良子
夏山に雪かとまがふ不確かさ目の衰へを雲まで茶化す 高貝 次郎
錠剤のおのもおのもに個性あり輝り、色、形ひと飲みにする 橋本 俊明
人生に疲れたときも歌を詠む妻の強腰なんぞに負けて 吹矢 正清
眠剤をパンに包みてほほばりぬかつては犬に試しし要領 奥田美代子
期日前投票箱の暗闇にわが一票を滑り込ませり 佐田 公子
八十路ゆくわが初にみる茜富士されば上野の北斎に告げむ 鈴木 和子

◆平成30年 1月号
細長き君の影を踏む この今がいつまでも続く夢を見ながら 高田  好
悲しみを共に語りて五十年雨降れば来る友を待ちをり 友成 節子
ヘルパーの愚痴を聞きゐつ穏やかな一日を少しかきまぜらるる 広瀬美智子
いつ果つるともなく続く介護とふ現は私を縛りて離さず 西原寿美子
上巻の悲しみ終わり下巻へと続く展開 蟬のかしまし 渡辺ちとせ
長ながと影引き遊ぶ子供らの声が聞えてくるやうな耳 臼井 良夫
ふり向けば過去でしかなく表現を競いし本が書棚にねむる 児玉南海子
揺れやまぬカヤの穂先の赤とんぼ耀ふ透き翅きらら煌めく 清水 典子
水菓子の呼び名ふさわし朝採りの梨はるばると友より届く 鈴木 純子
一夜にして雪の重さに折るるとふ吉野の山の杉物語 井手彩朕子
悔いあるやベッドに眠る京男遊び足らぬと口真一文字 山口美加代
すすきの穂白鷺むるる様にして風に従い秋深めゆく 佐々木礼子
満月のしろき光はわが裡をのぞき込むごと襟元にさす 岩本ちずる
いつもなら会釈も今朝は朝顔の色よきを誉め通り過ぎたり 髙間 照子
ここに住みて四十年のうたかたよカレンダー今年の一枚残す 中村ま寿子
高齢者は避難準備の放送に我も含まるると今さら気付く 成田ヱツ子
秋たけていよよ艶もつ実むらさきそと手折りたりその名に寄せて 西尾 繁子
上海は三度目なれど初めての蘇州・無錫の夢に旅立つ 松下 睦子
生きている人のぬくもりを確かめるために乗ります満員電車 森崎 理加
人を待つ風にゆられて月を待つみやぎの萩は花蝶になり 石川  梓
米沢牛昆布巻ありき芋徳利豪栄道ありみな日本一 高貝 次郎
亀山家の垣に馬酔木の咲く頃のある日一会(いちゑ)の鈴花に() 高田 香澄
死へ急ぐ者ら均しく大部屋の秋の夜長を高鼾かく 橋本 俊明
どこがどう縮みゆくのか老いの日を庭の干し竿に干し辛くなる 青山 良子
二尺余の杖に全身委ねつつ地下鉄九條の駅の階段 大森 孝一
透明の青さ続けり竹林の抜けくる風を身に深く吸う 北岡 礼子
彼岸にて西行忌など語りゐむ桜の樹の下大岡信(おほをか)偲ぶ 伊関正太郎
おろし金に白くしたたる大根のツンと来るとき朝のはじまる 浦山 増二
右折するバスの窓より吾を見る乗客はみな老人である 川口 六朗
「ぴったしになった」と言えば九十歳かと応ずる友にひとり苦笑す 草刈あき子
大輪の鶏頭あかく秋日受け散歩の小犬だかれ鼻よす 才藤 榮子

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