作品紹介
覇王樹 選歌
◆平成30年 5月号
ひもじさに目白、鵯、四十雀野性なくして餌を待ちてゐる 矢口芙三恵
わが市より格式上の大津なる寒の底冷え街を縮ます 渡辺 千歳
弱りたる足腰強化のバイク漕ぐ漕げこげ梓リズムを取りて 石川  梓
カタルパの白ひと色の花びらに翅震わせて揚羽の憩う 石橋 謙三
夕空にゆうるりゆるり鳶一羽ハムを持ちくる老女まちゐる 岩本ちずる
くつ箱はラ行の名前目立ちおり幸子よし子は何処にいきしか 浦山 増二
五つ株の水仙の根それぞれに配りて若者命絶ちたり 友成 節子
白菜も大根もみな雪に埋め北の二月はまだまだ長し 臼井 良夫
それとなく痛む胃のこと告げられし男のわれはつね迂闊なる 橋本 俊明
就職を伝ふる教へ子に笑みこぼる引つ込み思案の君の成長 西原寿美子
「幸せの会議中です」窓際のプーさん五匹朝日に並ぶ 三上眞知子
親も子も孫も三代くんちバカ彌栄祈る諏訪の大祭 常川  緑
雪は降る道にあらはに転がれるペットボトルの音の静けさ 佐田  毅
狛犬は灯籠の火に寛ぎのあうんで梅の祭りを嗅げり 石川 文子
語るたび消したき記憶次々と思ひの巡る齢となりぬ 伊関正太郎
白髪が似合ひますねと言ひくるる女性ら皆髪染めてをり 上野 安世
雪降らぬ町に降る雪早起きの子にだけ見えた真っ白な道 小笠原朝子
歳月は玉虫色の愛ならむ看取りし母の齢を越える 木下 順造
春雨は介護施設を包みふる木々の芽吹きを促しながら 小西 喜弘
わが脳裏駈け巡るらし〈A型菌〉レム睡眠の怪しい夢見 山口美加代
臘梅の硬き花弁に触れゐつつまた巡り来し春を恃まむ 渡辺 茂子
すこし食べたくさん眠り偶に飲まむ七度目の干支意のままに生く 青山 良子
ゆつくりと音符をたどる足どりに()をとるらしき一羽の小サギ 有田 秀子
ジョージアの風土をかもす栃ノ心序盤戦での五勝はほまれ 高貝 次郎
この時期は着ぐるみ病院傷ついて汚れた子等をリニューアルする 南條 和子
二けたの温度になると予報士は手柄のごとく明日を告げゐる 広瀬美智子
このひとのいいね!マークかの人の拍手マークに応援送る 吹矢 正清
初孫のあれよといふ間に嫁ぎけり門出を祝ふにこの寂しさは 鈴木 和子
木の陰がざわめき割るる何ぞあれ見るなの掟犯したるのか 高田  好
亡き父母の足の形を足して二で割りたるような吾の足なり 高橋美香子
パスワード打たねば見られぬ夢もあり煩悩菩提の石塀小路 宮本 照男
痛いとこどこもないから幸せと枯れ木のような手を振るあなた 森崎 理加

◆平成30年 4月号
銀座線丸ノ内線日比谷線ミライもカコにも行けない乗り物 森崎 理加
生れし家の仏前に焚く線香の煙滑らかに供花へ溶けゆく 佐々木礼子
物干しの竿に揺るるは人形の服かとも見ゆ、曽孫は広場 清水 典子
緩みたる老体のネジきっぱりと締めて今年の一歩ふみだす 今野惠美子
大根を引きたる暗き穴にちる散華のやうなひとひらの雪 友成 節子
彩りの淋しくなれる庭先に南天の実の紅さ際立つ 西原寿美子
他人事と思へぬ七十代の死も肯ひて生きる一日ひと日を 橋本 俊明
去年夫と箱根駅伝見てゐしを独り見てゐる広過ぎる部屋 広瀬美智子
雪害を聞くたびごとに詩の景が一つ一つと消えゆくうつつ 佐田  毅
ぐんにゃりと文字盤曲がる掛け時計針は指したり未来予想図 宮本 照男
竹生島の白蛇のやさしい顔だったこといつもそんな顔でいよう 山口美加代
嗚呼これが私自身の調べなり正月終わり静まる身の辺 吉田 和代
待ちあぐね雪見障子を押し上ぐれば白くふくらむ夕ぐれの空 石川 文子
雪の日に真つ赤なイチゴ頬張れば身体びくんと小さく震へる 岩本ちずる
廻りくる「雪やこんこ」の灯油屋に合わせて歌う隣りの仔犬 浦山 増二
目の玉の飛蚊の如く灰色の暗き空より雪の騒がし 川口 六朗
あの人もあの家もまた消え去るか古い団地の向かう道筋 木下 順造
渇きにも似て恋したる海の月独りデッキで風に吹かるる 松下 睦子
霜月のぶどう食みつつ仰ぎ見る空への喚起つねに鋭き 渡辺ちとせ
喜びを痩身に見せ輝ける亡妻の仕草の忘れ得ずして 小西 喜弘
モンゴル勢で成り立つてゐる相撲です八十二歳の婆さん強気 高貝 次郎
ムシムシと足音響く午前五時ムシムシ君の足音聞く朝 渡邊富紀子
学歴を外して頭外すとき優しきものの見えて来たりぬ 古城いつも
この先も日記書けるかまどいつつ年に一度の本屋に向かう 草刈あき子
曖昧な記憶としてあり初恋は通り過ぎ行く春風のにおい 高田  好
窓際のスズメバチの巣健在なり家主の優しさ冬日燦々 高橋美香子
いつまでを主婦と言うのか迷いつつ職業欄の主婦を囲みぬ 中村ま寿子
外聞も人目も気にせぬ気楽さよ古稀が私を自由にさせる 成田ヱツ子

◆平成30年 3月号
雪かきの一つ加わるそれのみにわれの仕事の手順がかわる 藤峰タケ子
らんは犬吾は人にと生まれしも通うものあり冬日の中で 三上眞知子
編むとふはわが生き様か焦燥も虚無もひたむき一本の針 渡辺 茂子
夕ぐれて赤い灯青い灯信号の点れる眼下に今日も安らぐ 今畑 敏子
大阪に嫁ぎ五十年友はもうボケもツッコミも一人でこなす 児玉南海子
亡き猫によき日のありぬデジカメにみめよき猫と今も遊べり 高田 香澄
西山に午後三時半沈む日としがらみ尽きぬ師走を踏めり 田口 耕生
新聞の見出しはそのものずばりです「相撲協会未熟さ露呈」 高貝 次郎
人生の高速道路逆走に転がり行くは夢でありしか 松下 睦子
朝刊を読む楽しみは文芸欄投稿者の名いつしかなじみに 富安 秀子
国民の安けくのみを祈りたる皇居の杜の茨線哀し 中野 悦子
花も葉も実も赤のみを集め活けわがリビングに赤を競わす 村尾美智子
よくもまあ花火のあがる"大曲" 慣れいる我もときに驚く 田中 春代
逝く日まで口惜しき日々過ごしけん明け暮れて来し透析などに 佐田  毅
尾崎豊となるべき少年の通学路朝霞市溝沼四丁目の路地 山北 悦子
バスタブに身を開放しよいことを心に綴る冬至柚子湯 山口美加代
跨ぐとき口を開けたるクレバスに命縮まる飯田橋駅 石川 文子
ひと冬を耐えてそこまで春が来た梅の古木の花の芽の見ゆ 石橋 謙三
不安なるきもち鎮める術ならむICUの夫を詠みゐる 岩本ちずる
秋天にもの言いたげなはぐれ雲あいつの気持ち聞いてくれぬか 浦山 増二
じわじわとアメーバの如く広がるはテレビに映る雨の天気図 川口 六朗
厨房で哲学を語る女ありき昭和半ばの危ふき若さ 橋本 俊明
党名の換わることさえ疎ましく掲示板過ぐすすき穂の揺れ 渡辺ちとせ
短命の親の子にして七度目の戌年の庭に千両赫く 青山 良子
山の端の西日が不意に壁を刺し根源の如き寂しさの来る 臼井 良夫
厳寒に生死をかけて漁に出る民の無謀をはかるもむなし 永田賢之助
目尻より流るるしづく耳に受け夜長の夢に冬の雨音 西原寿美子
介護用ベッドは祖母の城になり枕元より干芋探す 渡邊富紀子
いつまでも小骨の残る心地する義母の葬儀のありし年終わる 北岡 礼子
蚊帳つり草かやつる野辺は冬ざれて寂しさびしとわれは山姥 今野惠美子
さみしき日図書館へ行く本の声あまた降り来て我を忘るる 高田  好
ハンバーグ三百グラムを平らげるラメ光る娘の目頭見ており 高橋美香子

◆平成30年 2月号
潤さんの生きる理由はその笑顔と言はれしことも遣る瀬なき宵 西原寿美子
いつだって胸の真ん中少し上 隠した気持ちがほとほと叩く 森崎 理加
持て余す思い一つそれはそれハロウィンの街は賑わう 山口美加代
縮みてはふくれる色に血管の私を統べる不思議なる筋 渡辺ちとせ
一点となりたる鳥が一条の光の中に溶けてゆきたり 臼井 良夫
冬の日を背中に受けて歩けるが小さな影がいつも我がまへ 川口 六朗
告白をためらうように山茶花の蕾のひとつが紅をほぐしぬ 児玉南海子
店閉じし蕎麦屋の軒にしおれたる白き鉢花いつまでもあり 今野恵美子
団栗の潜む櫟の落葉道君が踏む音、吾の踏む音 清水 典子
亡き父の残した赤目の木彫猫おまえもずっと泣いていたのか 高橋美香子
木蔭にも光を通す落葉樹妖精となる君に逢ひたし 佐田  毅
笑い声の転がるような英語文字カナダの住所を友知らせ来る 高田  好
君だけにそっと教えてあげようかあの望月の前の夜のこと 浦山 増二
癒え難き持病抱える原発に正月の雪積もりて消えず 石橋 謙三
ふと見上ぐ「敬愛一如」の扁額は結婚祝いに賜りしもの 村尾 道生
注文の料理くるまで腰浮かし覗き見ている鮭昇る川 玉尾サツ子
「女湯はもう入れん」と男湯へ六歳・十歳肩をいからせ 田中 昭子
嗚呼君のいのち絶えたる後々も生きて輝く人形たちは 南條 和子
空海の開きし山の頂きに背負えるものの荷を下ろし行く 宮本 照男
言葉得るヘレンおもへり幼子は絵本に指さすはな、いぬ、みかん 山北 悦子
こんなにも静かなままの夕餉なりスマホ操る孫を一喝 山中 貞三
こどもらがかはりばんこに投げ受けばボールは行き交ふ犬を見て居る 石川 文子
くり返し見ても飽きない故郷の町は変れど地図は変らじ 今畑 敏子
ダイエツトの器具やサプリの映像にばあば買はんねの切なき助言 岩本ちずる
お隣りの幼ら苗字で我を呼ぶ一息息吸い幼い声で 小笠原朝子
一本の鉛筆に書くは幾文字や芯削りつつ思ひ拡がる 広瀬美智子
離れ舞う落ち葉にも似てこの我も放され独り歩む荒野を 松下 睦子
一筋の銀杏落葉を踏みしめて安しと言へざるわが生き様よ 渡辺 茂子
夜香木君亡きこの世の夜を咲き黙って匂い黙って散りぬ 青山 良子
夏山に雪かとまがふ不確かさ目の衰へを雲まで茶化す 高貝 次郎
錠剤のおのもおのもに個性あり輝り、色、形ひと飲みにする 橋本 俊明
人生に疲れたときも歌を詠む妻の強腰なんぞに負けて 吹矢 正清
眠剤をパンに包みてほほばりぬかつては犬に試しし要領 奥田美代子
期日前投票箱の暗闇にわが一票を滑り込ませり 佐田 公子
八十路ゆくわが初にみる茜富士されば上野の北斎に告げむ 鈴木 和子

◆平成30年 1月号
細長き君の影を踏む この今がいつまでも続く夢を見ながら 高田  好
悲しみを共に語りて五十年雨降れば来る友を待ちをり 友成 節子
ヘルパーの愚痴を聞きゐつ穏やかな一日を少しかきまぜらるる 広瀬美智子
いつ果つるともなく続く介護とふ現は私を縛りて離さず 西原寿美子
上巻の悲しみ終わり下巻へと続く展開 蟬のかしまし 渡辺ちとせ
長ながと影引き遊ぶ子供らの声が聞えてくるやうな耳 臼井 良夫
ふり向けば過去でしかなく表現を競いし本が書棚にねむる 児玉南海子
揺れやまぬカヤの穂先の赤とんぼ耀ふ透き翅きらら煌めく 清水 典子
水菓子の呼び名ふさわし朝採りの梨はるばると友より届く 鈴木 純子
一夜にして雪の重さに折るるとふ吉野の山の杉物語 井手彩朕子
悔いあるやベッドに眠る京男遊び足らぬと口真一文字 山口美加代
すすきの穂白鷺むるる様にして風に従い秋深めゆく 佐々木礼子
満月のしろき光はわが裡をのぞき込むごと襟元にさす 岩本ちずる
いつもなら会釈も今朝は朝顔の色よきを誉め通り過ぎたり 髙間 照子
ここに住みて四十年のうたかたよカレンダー今年の一枚残す 中村ま寿子
高齢者は避難準備の放送に我も含まるると今さら気付く 成田ヱツ子
秋たけていよよ艶もつ実むらさきそと手折りたりその名に寄せて 西尾 繁子
上海は三度目なれど初めての蘇州・無錫の夢に旅立つ 松下 睦子
生きている人のぬくもりを確かめるために乗ります満員電車 森崎 理加
人を待つ風にゆられて月を待つみやぎの萩は花蝶になり 石川  梓
米沢牛昆布巻ありき芋徳利豪栄道ありみな日本一 高貝 次郎
亀山家の垣に馬酔木の咲く頃のある日一会(いちゑ)の鈴花に() 高田 香澄
死へ急ぐ者ら均しく大部屋の秋の夜長を高鼾かく 橋本 俊明
どこがどう縮みゆくのか老いの日を庭の干し竿に干し辛くなる 青山 良子
二尺余の杖に全身委ねつつ地下鉄九條の駅の階段 大森 孝一
透明の青さ続けり竹林の抜けくる風を身に深く吸う 北岡 礼子
彼岸にて西行忌など語りゐむ桜の樹の下大岡信(おほをか)偲ぶ 伊関正太郎
おろし金に白くしたたる大根のツンと来るとき朝のはじまる 浦山 増二
右折するバスの窓より吾を見る乗客はみな老人である 川口 六朗
「ぴったしになった」と言えば九十歳かと応ずる友にひとり苦笑す 草刈あき子
大輪の鶏頭あかく秋日受け散歩の小犬だかれ鼻よす 才藤 榮子

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